学位プログラムリーダー挨拶

 

 体育学学位プログラムは、昭和39年(1964)に設立された東京教育大学大学院体育研究科を嚆矢とし、諸々名称を変えながらも現在までその命脈を伝えるものであり、日本で最も古くからの伝統を有する体育系大学院の一つです。東京教育大学から筑波大学へ伝わる「茗渓の水」を守りつつ、名実ともに我が国の体育・スポーツ界における大学院教育をリードしてきたと自負しています。

 筑波大学では2020年に大学院を大きく改組再編し、達成すべき能力(コンピテンス)を明示した上で、これを修得できる教育プログラムを構築しました。これを学位プログラム化と言っています。

 本学位プログラムには、体育・スポーツ学から健康体力学、そしてコーチング学まで幅広い分野にわたる39もの研究領域があります。研究領域の豊富さと、その研究・教育レベルの高さが筑波体育の一つの特徴です。各々がこの研究領域に所属しつつ専門的な研究活動を行っています。

 更にこれと並行して、高度職業人としての能力を修得するため、職域に対応した6つの系列を用意し、各々がいずれかの系列の履修モデルにそって学修するように教育課程をデザインしています。具体的には、スポーツ文化・経営政策、健康・スポーツ教育、ヘルスフィットネス、アスレティックコンディショニング、コーチング、ナショナルリーディングコーチ養成といった各系列があります。中でも、他にはない本学位プログラム独自のものとして、ナショナルレベルのコーチ志望者を対象とし、国を代表して活躍するために必要な日本文化の理解や、実践的な英語能力を修得するナショナルリーディングコーチ養成系列などは、筑波大学を特徴づける独創的な教育プログラムです。

 以上のように、専門の研究領域に所属しつつ、職域対応の系列を選択して学修するという二重構造の教育デザインが本学位プログラムの大きな特徴です。

 次に私が学位プログラムリーダーとして、常々所属する大学院生に話していることを記しておこうと思います。主に三つあり、一つ目に「学際性」、二つ目が「国際性」、そして最後の三つ目が「文武両道」ということです。

 最初に一つ目の学際性についてです。

 先ず勉強と研究の違いを理解する必要があります。簡単に言いますと、勉強は既に世の中で分かっていることを知識として身に付けることであり、それに対して研究とは、まだ分かっていないこと、つまり未解決問題を解明することです。大学院が学群・学部と大きく違うところは、大学での生活そのものが勉強から研究に大きくシフトする点です。

 大学院生には自分の専門領域の研究に没頭してもらいたいのですが、まだ博士前期課程のこの時期にそれだけに終始し、狭い領域に閉じこもってしまうと将来伸びません。周辺の領域も含めて、広く様々な研究成果や方法論に触れることが大切です。そして何より、一流の優れた研究成果や方法論、そして本物の研究者と多く接することです。このことによって研究に幅ができ、将来自分が大きく成長していく素地になります。これを学際性と言っています。

 体育学学位プログラムでは先に述べたように実に多くのしかも高いレベルの研究領域が身近にあり、又、中間報告会や修士論文コンクールなど他領域に属する複数の教員から指導を受ける場が用意されています。言うまでもなくここには本物の研究者が沢山います。この環境を活かしてもらいたいと思います。

 二つ目に国際性についてです。

 筑波大学は開学以来、国際性を標榜しており、「国際性の日常化」ということを謳っています。語学のことはもちろんですが、若くて身体も頭も柔らかいこの時期に、多くの外国の地を踏んで、その国の文化を肌で感じることが大切です。見るもの、聞くもの、触れるもの全てが新鮮であり、価値観が大きく変わるはずです。又、真綿が水を吸収するような感覚を自覚し、自分が成長していることが実感できるはずです。

 「はばたけ!筑大生」などといった海外渡航を支援する制度も用意されていますので、将来世界を叉にかけて活躍する素養を当学位プログラムで養ってもらいたいと考えています。

 最後に文武両道についてです。

 非常に高いレベルの研究活動と、世界で通用する日本トップクラスの実技実践現場が同時にここに存在します。どういう形であるにせよ、この二つに何らかの形でかかわっていくのが本学位プログラムのスタイルであると考えています。

 軸足がどっちにあっても構いません。実技実践で抱いた問題意識を学術的に解明する、あるいは自らの研究成果を実技実践現場に還元する、どちらの立ち位置でもよいと思います。又、研究と実技、つまり文と武、その割合がどうであっても構わないと考えます。文武を分かたず、文武両道を実行するのが筑波体育の最大の特徴です。

 私は是非とも、体育学学位プログラムで、上記、学際性・国際性・文武両道を多くに人に体現してもらいたいと考えています。

 

体育学学位プログラムリーダー  酒井 利信